26.09.02 ・ 10 分で読めます
はじめに
ごきげんよう。紅坂篤樹です。 本日は、きりのはのべる『なついろにっき。』を批評していきます。 一部、DLSite やエロゲー批評空間に書いた内容とも重複しますが、念のため絶対に消されようのないこの場所にも書いておきます。
ネタバレがありますので、ご注意ください。 もっとも、バレるようなネタはこの商品にはありませんが。
批評
総評
何もない。今季最低のゲームです。
いやもう作品どうこうじゃない。伝える気持ち、描く執念。読者ねじ伏せようとする。
まったく見れない。
タイトル詐欺
まず、本ゲームはタイトル詐欺も甚だしい。 『なついろにっき。』というタイトルであるにもかかわらず、夏要素もなければ、日記要素もない。 本文中の「布団」や「寒い」などの状況説明からして、冬であると言われた方が納得できるレベル。 CUBE『サメと生きる七日間』をパクって『天使と生きる七日間』とかの方が良かっただろう。
全体的なシナリオへの批評
シナリオの骨格を担うのは、伏線とキャラ付けであるが、このゲームはいずれもダメである。
全体的に、何を伝えたいのかまったくわからないゲームだった。 ステラがステラである必要性も、千ヶ崎蓮が千ヶ崎蓮である必要性も感じることができなかった。
シナリオの一部に生成 AI を利用したとあるが、シナリオはすべて AI が生成しました、と言われた方が納得できる。 適切に描写がなされなかった蓮とステラが可哀想になるレベルである。 シナリオ協力に waku というクレジットがなされていたが、waku 氏やディレクターの宇佐ぱん氏は、きちんとシナリオを確認したのだろうか? シナリオスタッフに対して、疑問符をつけざるを得ない。 あまりにもひどすぎて、学マスにおける伏見つかさと雨宮和希がマシに思えるレベル。
未回収の伏線
- なぜ「任務」を割り当てられたのか。
- なぜステラが起こす以外の行動に出たのか(起こして帰るだけで良いはずである)。
- なぜステラはファッション雑誌を読んでいたのか。
- なぜステラは蓮のことが好きになったのか。
- なぜ蓮はこのような状況に陥ったのか。
- なぜ蓮はステラを見て驚かなかったのか。
- なぜ蓮はステラのことが好きになったのか。
- 天界とは何なのか。
- 天使の中の序列とは何か。
すべての伏線が回収されずに終わってしまったため、何もわからないままであった。 これは読者に想像を委ねるというよりも、単に説明責任を放棄しているだけである。 なぜならば、想像できるだけの余白(深み)がシナリオの中にないから。 脈絡も何もなければ、人間的な深みもないため、読んでいて何も感じることができない。 私の目には、ただよくわからない白い少女の姿で上級天使と自称する謎の不審者が毎日不法侵入してくる状況を、なぜか大学生が受け入れ、なぜかその二人の関係性が色恋沙汰に発展しているようにしか映らない。
ステラがパブロフの犬
本ゲームにおけるヒロインである所のシェフェール・ステラは、パブロフの犬としか思えなかった。
朝起こしにきて、主人公の言ったことに対して照れるという一連の流れを、7 日間繰り返すだけである。 ここからは、人間的な深みなどというものをまったく感じることができないし、まして本ゲームの一番の目的であろう、萌えたり、かわいいと思ったりすることすらできない。
単にツンデレが照れるだけならば、別にシェフェール・ステラである必要性はなく、誰でも良い。 本ゲームにおけるステラは、単に使い古された記号をなぞっているだけである。 ステラの代替可能性を低下させ、新規性のあるキャラクターにする努力を、まったく感じることができない。 こんな毒親のもとに生まれてしまったステラが可哀想。
蓮が無キャ
一方の蓮にも問題がある。
自堕落な夏休みを過ごしている所から、徐々に社会へ復帰するという過程は、7 日間でも十分描写できたであろう。 せっかく夏という季節設定であるのだから、アイス、プール、花火、夏祭りなどの季節モノのイベントをこなすことによって、社会とのかかわりをもち始めるべきであった。しかし本ゲームは、蓮の家の中で物語が完結してしまっており、季節設定が完全に死んでいる。 これによって、蓮は単に主体性のないドパガキとしてしか映らなくなってしまっている。True エンドにおいては、その蓮がいきなり自我をもち、ステラのことを引き止め始めるのだから、当惑も甚だしい。
ノベルゲームの良い所は、主人公の内心描写を過度なまでにできる点であろう。しかし、本ゲームには、内心描写が一つもない。したがって、蓮が何を考えてステラを引き止めたのか、まったくわからない。
蓮はもはや陰キャではない。 無キャである。 代替可能かつ新規性のない無キャは、主人公に相応しくない。 こんな毒親のもとに生まれてしまった蓮が可哀想。
日本語の問題
生成 AI だからかもしれないが、シナリオの日本語が随所において不自由となっている。
- 使命書
- 使命の執行
- 羽根(天使の翼のことは羽根ではなく単に羽と呼ぶであろう)
- 仕舞う(正しくはあるが、読みやすさの観点からひらくものであろう)
- 任務遂行
- 研究の精度確認(研究の方向性が正しいかどうかについて言及する際は「精度」とは言わないであろう)
- 私用(わたしよう。私の分、などと言い換えるか、ルビを振るべきであろう)
シナリオというのは、読者にとって読みやすいものであるべきだ。 これは、内容が易しい・難しい、ローコンテクスト・ハイコンテクストなどとは別に、いたずらに読みにくい言い回しは、根拠もなく使うべきでない。 とくに今回は蓮もステラも独特な言い回しをするキャラ付けはなされていない(というより、キャラ付けがまったくなされておらず、無味乾燥である)ので、単に言い回しが不自然であるだけとなっている。 このように読者への配慮を感じることができない点からも、シナリオの制作体制の杜撰さを疑わざるを得ない。
システムの問題
このゲームはバグやシステムの欠陥が多い。 まず、明らかなバグは以下の通りである。
- なぜかスキップできなくなる
- 依存 END について、未読であるにもかかわらずスキップされる
次に、システム面の主な不満は、以下の通りである。
- マウスの上スクロールや上矢印ボタンでバックログを呼び出すことができない
- Ctrl 長押しで既読スキップをすることができない
- テキストの瞬間表示ができない
- ロードが長い
- スチルの全画面表示の際にスキップができない
ゲームとしての最低限もできていない。 シナリオもダメ、演出・システムもダメ、じゃあ君には何ができるんや。
何より、依存度が中くらいだと True エンドになるのは謎である。 ルート分岐のためのルート分岐となってしまっているため、一本道の方がマトモなゲームとなったであろう。
本作品が同人ソフトという媒体であるという問題
単に絵がかわいいだけならば、他の大手の作品や、より画力で勝っている作品に知名度、人気度で負ける。 したがって、同人作品というのは、何かにおいて尖っていなければ、そもそも届けたい人には届かない媒体なのである。 商業ブランドの企画として本ゲームを売るならば、商品としての方向性は間違っていないと思うが、商品でなく作品として評価される同人ソフトという媒体においては、明らかに方向性を誤っている。
筆者だったらこのようなシナリオを書く
あまりにもあんまりなシナリオだったので、蓮とステラへの供養として、筆者の考えた『なついろにっき。』を置いておく。
- ジャンル : 魔法のランプ
共通
- オープニング・イメージ : 自堕落な引きこもり生活を送る大学生・蓮。
- テーマの提示 : 蓮の願いは何か。
- セットアップ : 自宅に押しかけてくる妹を適当にあしらって昼夜逆転していた蓮は、流星群に願いを言おうとするが、口が開かない。
- きっかけ : 流星群を見てから眠りこけていた蓮を、突然現れた天使・ステラが起こしにくる。
- 悩みのとき : 蓮はステラの存在に困惑しつつも、自分の願いは何か、思い悩む。
- 第一ターニング・ポイント : 突然綺麗になった部屋や、自発的に料理を作る蓮を見て、妹は訝しむ。
- サブプロット : バイト先の先輩も、突然バイト先に復帰した蓮を訝しむ。
- お楽しみ : ステラと共に甘いひと夏を過ごす蓮。
- ミッド・ポイント : ステラのお陰で絶好調になる蓮。
- 迫り来る悪い奴ら : 蓮はふとしたキッカケでステラと大喧嘩をしてしまい、怒ったステラは天界へと帰ってしまう。
- すべてを失って : 危うく自殺をしかける蓮を、妹と先輩が助ける。
- 心の暗闇 : 妹と先輩のケアで、徐々に人間社会へ復帰した蓮は、ようやく願いを見つける。
- ルート分岐 : 「俺の願いは……」
- 「俺」が幸せになることだ(依存)
- 「人間たち」が幸せになることだ(自立)
- 「皆」が幸せになることだ(true)
- 第二ターニング・ポイント : 女神の命令で再び蓮の許を訪れたステラが、律儀にインターホンを押してやって来る。
依存ルート
- フィナーレ : 自分の幸せを優先した蓮は、ステラを襲い、「自分が幸せになること」を願いとして選ぶ。
- ファイナル・イメージ : ステラと離別した蓮だったが、願いの効果で社会復帰を果たし、バイト先で新たな出会いをするのであった。
自立ルート
- フィナーレ : 蓮はステラを拒絶し、「ステラが帰って、天界で幸せになること」を願いとして選ぶ。
- ファイナル・イメージ : ステラと離別した蓮は、苦しかった期間に自分を助けてくれた妹や先輩たちに恩返しをするべく働くのであった。
true ルート
- フィナーレ : 蓮は「誰も不幸せにならないこと」を願いとして選ぶ。
- ファイナル・イメージ : 蓮は妹や先輩に恩返ししつつ、人間になったステラと共に暮らすのであった。
むすびに
いかがでしたでしょうか。
筑波大学に対する愛校心に満ち溢れている私からしてみれば、こんな商品の制作元に『きりのは』とか「筑波大学発」とか名乗ってほしくないと思いました。『きりのはのべる』ではなくて『きょうすけのべる』なら許していたんですけどね。
本批評をお読みになられた皆々様におかれましては、ゲーム本編は買わなくて結構です。その 550 円は、もっと別に有意義な使い方ができると思います。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました! また、別の批評でお会いしましょう。